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column [ 前田 康行 ]

Q 経営安定のために株主の分散を避けることが望ましいという事情は、民法906条の「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」「その他一切の事情」に該当するか。

Q 経営の安定のために株主の分散を避けることが望ましいという事情は、民法906条が定める「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」「その他一切の事情」に該当するか。
A 該当する。

M&M横浜法律事務所の弁護士、前田康行です。同族会社のオーナーが亡くなり、相続が開始した場合、その後継者となる相続人が、会社経営の安定のために、遺産となる当該会社の株式を集中して取得する必要性があります。このような事情が、遺産分割の基準を定めた民法906条が定める「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」「その他一切の事情」に該当するのかという問題があります。

この点について千葉家庭裁判所松戸支部平成26年1月15日審判(判例時報2244号26頁)は、「申立人らは,相手方らが同社株式の取得を求めるのは,同社所有資産を売却する意見を表明している同社最大の株主Iの意向を反映しているものであり,これを認めると同社の存続に重大な支障が生じるおそれがあるなどと主張する。しかしながら,遺産分割によって取得した株式に基づいてその会社に関してどのように権利行使をしようと,それは株式を取得した者の,自由であり,その権利行使の内容如何によって遺産取得の是非を判断するのは相当ではないから,申立人らの主張する事情は,本件遺産分割の方法を定める際に考慮すべき事情には当たらない。」という理由で、「法定相続分に応じて各相続人に取得させることとするのが相当である。」と判断しています。

しかし、その抗告審である東京高裁平成26年3月20日決定(判例タイムズ1410号113頁)は、「G社は,初代社長のI及びその親族がこれまで経営に当たってきたものであり,また,その大半の株式をIの親族が保有しているという典型的な同族会社であり,その経営規模からすれば,経営の安定のためには,株主の分散を避けることが望ましいということができる。このことは,会社法174条が,株式会社はその譲渡制限株式を取得した者に対して自社に当該株式を売り渡すことを請求できる旨を定款で定めることができると規定し,また,中小企業における経営の承継の円滑化を図ることを目的として制定された中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(平成20年5月16日法律第33号)が,旧代表者の推定相続人は,そのうちの一人が後継者である場合には,その全員の合意をもって,書面により,当該後継者が当該旧代表者からの贈与等により取得した株式等の全部又は一部について,その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないことを合意し,家庭裁判所の許可を受けた場合には,上記合意に係る株式等の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないものとすると規定している(4条1項1号,8条1項,9条1項)ことなどに表れている。これらの規定は,中小企業の代表者の死亡等に起因する経営の承継がその事業活動の継続に悪影響を及ぼすことを懸念して立法されたものであり,そのような事情は,民法906条所定の「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」「その他一切の事情」に当たるというべきであるから,本件においても,これを考慮して遺産を分割するのが相当である。
 そして,上記認定のG社の株主構成や,抗告人AがG社の次期社長に就任する予定であり,残高1250万1000円の預金通帳を提出して代償金の支払能力のあることが認められることなどに鑑みると,本件株式は,全部これを抗告人Aに取得させるのが相当である。」とし、後継者である抗告人に株式全部の取得を認めました。

2025/06/10