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column [ 前田 康行 ]

Q 共有株式の権利行使

M&M横浜法律事務所の弁護士、前田康行です。株式会社の株式が共有に属する場合(株式は、所有権以外の財産権なので、正確には「準共有」(民法264条)となります。)、その株式の権利行使方法について整理します。

1 株式の共有が生じる場合
株式の共有は多くの場合、相続によって生じます。株主が死亡し、その相続人が複数いる場合、各相続人の相続分に応じて当然に分割されるのではなく、共同相続人の各相続分に応じて準共有となります(民法898条、264条、最判昭和45年1月22日民集24巻1号1頁)。そのため、例えば、100株を有していた株主が死亡し、その子2人が相続人の場合、各相続人に50株が帰属するのではなく、100株の株式を2人の相続人が準共有しているという状態になります。

2 共有の場合の権利行使方法(権利行使者を定める)
準共有に属する株式について、法は、「株主の権利を行使すべき者一人を定め、株式会社に大して、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利行使を行使するができない。」と定めています(会社法106条本文)。これは、共有一般の規定に従って権利行使が行われると、それが適法に行われているか否かを会社が個々に確認することは煩雑だからです。共有一般の規定に従って議決権の権利行使をすると、原則として、管理行為として、各共有者の持分割合の過半数で決せられるが、議案の内容によっては処分行為として共有者全員の同意が必要になり、会社としては、これを逐一判断しなければいけなくなってしまうのです。
よって、株式の共有者(共同相続人)間において、この権利行使者を決めて、それを会社に通知する必要があります。

3 権利行使者の決め方
 (1) 全員の同意か、持分割合の過半数か
会社法106条本文の権利行使者の決め方は、共有者全員の同意を要するとする見解も有力です(江頭憲治郎「株式会社法 第8版」125頁)。)が、最高裁は、共有物の管理行為として、共有持分割合に従いその過半数で定め得ると判断しました(最判平成9年1月28日判時1599号139頁。)。
 (2) 共有者間の協議が必要か
共有持分割合の過半数で定められるとしても、過半数の持分を有する者だけで自由に決定できるか、それとも共有者間で協議を要するのかという点も問題となります。前者の考え方を前提にしているとも見受けられる最高裁判決(最判昭和39年1月23日裁判集民事71号275頁)もありますが、共有者間の協議を経ていることを重視する考え方も有力です。過半数を有する共有者は、念のため、権利行使者を決めるための全共有者間における協議を設けた方が安全と思われます。

4 権利行使者を決められない場合、定足数に算入するか
前記の方法で権利行使者が決められない場合、共有になっている株式について議決権を行使することができません。この議決権を行使できない株式について定足数に参入すべきか問題となりますが、定足数に参入すべきと解されています(江頭前掲349頁注4)。

5 権利行使者の権利行使方法
有効に指定された権利行使者は、他の共有者の意思に反した権利行使が可能で、権利行使者自らの判断に基づいた権利行使ができるとされています(最高裁昭和53年4月14日民集32巻3号601頁)。

6 会社法106条但書
会社法106条但書には「但し、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りではない」と定められており、会社が同意をすれば、権利行使者を定める方法による権利行使による必要がありません。
しかし、会社から同意された一部の共有者による権利行使が認められるということではありません。原則に戻り、共有者間において民法の共有の規定に従った権利行使ができるようになるだけであり、民法の共有の規定に反していた場合、その権利行使は違法になります(最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁)。

2025/06/03